賊に魅せられし者


海賊、それは海に魅せられた荒くれ者の集団。
時に夢を、時に財宝を、そして時に権力を広大な海に求め、彼らは今日も帆を張る。







海に浮かぶ二隻の船がある。穏やかな波の音とは対照的に船と船との間には痛いほどの緊張と隠しきれない殺気が流れていた。
それもそのはず寄り添うように並んで海を進んでいるのは海賊と海軍。本来敵対関係にある二つの集団の間にある空気が良いものな訳がない。


(こんな殺伐とした中でよく並走してられるな俺達。)


諦めかけな思考にため息をつきつつギルベルトは自身の部下に目をやる。
多少の怯えも感じるが熟練の者から新人にいたるまで皆、向かいの海賊を憎々しげに睨んでいる。事情を知らない数名はちらちらと視線を投げかけギルベルトの攻撃合図を待っている。
その視線に痛くなる頭を押さえたくなるのをグッと堪えてギルベルトは向かいに立つ海賊船へと目を向けた。


「殺れるもんなら俺だって殺りたいっつの。」


誰にも聞こえない最低限の音量でそう愚痴ればこちらの唇の動きを読んだのか。向かい合う金髪の男が楽しげに口角を上げた。


「どうしたギルベルト?海賊を前にだんまりたぁ、海軍も落ちたもんだな。」


「色々事情があんだよ。ワザと言ってんだろ。」


思いっきり状況を楽しんでいる相手に苛立ちつつ、ギルベルトは向かいの海賊船が掲げる旗を睨んだ。
笑う頭蓋骨とそのまわりに咲き乱れる美しい薔薇。海賊の蔓延る海でも一際目立つその旗はある程度の地位にいる者なら嫌でも知っている物。
それはイギリス王室、もとい女王陛下直轄下にあり、英国の繁栄を担うため国家より莫大な権力を与えられた。海賊、アーサー・カークランドの旗であった。
その国家に飼われたお飾りのような海軍に席をおくギルベルトにとって彼は処刑はおろか、傷つけることのすら許されない相手。彼にできる唯一の反抗といえば、苦々しく唇を噛むくらいしかなかった。
もちろん、アーサーもそれを知っている。知っているからこそ面白がり、ギルベルトの前にその顔をちらつかせているのだ。


「国家の狗じゃ満足に動けもしない、か。あーあー、かつての黒鷲殿が今はこんなヘタレに成り下がっているとは、嘆かわしいなぁおい。」


それともう一つ、アーサーがギルベルトの前に現れる理由があった。


「なぁ、ギルベルト。こっちに来いよ。ここならお前も自由に羽ばたけるぜ?」


彼はギルベルトに執着していた。正確にいえば海軍に入る前の傭兵時代、孤高の黒鷲と呼ばれたギルベルトとその腕を欲していた。


「お前がいるのはそこじゃねぇ。暴れ足りないんだろ?」


妖艶とも言える動作で手を差し出すアーサー。その手をジッと眺め、首を振る。


「悪いが、俺は俺を導いてくれた人の跡を継ぐ。窮屈でもイラついてもそこ曲げたら俺は賊にはならねぇよ。」


そう言い、ギルベルトはアーサーに向き直る。


「だから、俺はいつか必ずお前を捕まえる。覚えとけ、俺が本気でお前を捕らえにいくとき。それがテメェらの時代が終わる合図だ。」


かつて自分を闇から救ってくれた男は言った。間もなく海賊は必要がなくなる。
黙認していた存在の抹殺を実行する日は近い。

それが、嬉しくもあり、なぜか苦しくもある。
それはきっとギルベルトもまたアーサーを失うことを惜しいと思っているからだろう。
無意識に嘗ての己れと同じ貪欲に力を求め、孤独に咲く彼を欲しているのだ。
だから捕らえたいのだ。他の誰でもない自分の手で、


「今は、見逃してやる…覚悟しておけ。」


ギルベルトがにやりと笑えば、海賊たちは不愉快を隠そうともせず顔を歪め、自身の武器に手を伸ばす。それを制しながら満足そうにアーサーは笑いかえした。


「覚悟なんざいらねぇよ。お前はとっくに奪われる側の人間だ。」


簡単に合図を送り、アーサーは航路を変えさせる。ゆっくりと離れていく敵船を眺めつつ、ギルベルトは戦闘体勢を解くよう指示して、甲板をあとにした。

彼の薔薇のいない海に興味などないといわんばかりに。




海賊、それは海に魅せられた荒くれ者の集団。
時に夢を、時に財宝を、そして時に権力を広大な海に求め、彼らは今日も帆を張る。
そしてその欲に濡れた瞳に、美しいまでの残忍さに魅せられる者もまた、帆を張るのだ。


2010/10/13

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初期に書いたものを消して書き直してたらこんなことになってしまった。
なんかリバっぽいよ。

遅くなった上にこんな半端なものでごめんなさい!
姐さん、無理言って書かして貰ったのにごめんなさい!名城だからしょうがないんです!