紅桜舞散華


はらり、一筋の花びらが墜ちる。
それを見て俺はもう春かと感慨深く思う。
そう、もう春だ。

もうすぐお前がやってくる。

「アーサーさん、そろそろお時間ですよ」

「ああ、わかった」

祖国に咲く花びらを掴み、その花弁の絨毯を歩いていく。
ああ、今年はきれいな桜が咲いた。
これは彼に映えるだろうとひとりぷすりと笑った。

「何を笑っているんですか?」

「いやな、これギルベルトに意外と似合いそうじゃないか?」

「ああ、なるほど。
 確かに赤い目をその薄桃が引き立てそうですね」

「だろ?」

想像すると、なんと似合うことだろう。
彼はあの華美な衣装に身を包み、この花を差せば本当に似合うことだろう。

「今回もちゃんと来てますよ、春にしか来ない旅団が」

「ギルベルトもか?」

「ええ」

同僚の菊が答える。
それを聞いてそうかと思う。
そしてよかったとも。

ギルベルトとは俺が懇意にしている踊り子だ。
昔は荒れくれていたのだが、俺がその環境から拾い上げ、育てた。
そうすると、あいつは意外にもきれいな体つきをしていたから、踊り子とか向いてるんじゃないかと言ったら、本当に踊り子になってしまった。
しかも何故か女装で。

まあ、女装とはいえ、かつらをつけたりしている訳ではない。
ただ単に、華美な女物の服を着て、多少の化粧をしているだけだ。
それだけなんだが、色気はないのに、妙な魅力がある。
そんなギルベルトの入っている旅団は現在春である町を渡っている。
だから、俺とギルベルトが会うのはいつも春だけだ。

「ギルベルト」

俺が呼んでやると反応を見せる。

「あれ、アーサーと菊じゃねーか」

「こんにちは、ギルベルト君」

「元気にしてたか?」

互いに黒いマントに身を包んで、ギルベルトに挨拶をする。
それに対して、去年と変わらぬ笑顔で俺たちに笑いかけてくる。

「おうよ、俺は元気だぜ!」

そう言ったギルベルトはケセセと笑いだした。
こいつの笑い方は独特だといつも思う。

「ああ、そういえばさっき手折ったんだけど、お前に似合うんじゃねーかと思ってな」

手に持っていた桜の枝を短い髪に挿しているカンザシとの間に挿してやる。

「お、結構似合うな」

「桜、くれるのか?」

「べ、別にお前のためじゃねーからな!
 たまたま桜街道を歩いてきたからついでだ!」

そうだ、と言ってやりたいのに、言葉が続かない。
ああ、なんでこんなことを俺は言ってしまうんだろうか。
それでも、俺のこんな感情を見破ったのか、うれしそうに笑う。
それを見て、良かったと思った。

「アーサーさん、そろそろ我々は休憩時間が終わりますよ?」

「ああ、そうだった!じゃあな、ギルベルト。
 この国での公演もがんばれよ!」

そう言って離れてから手を挙げると、おうと言って手を軽く上げた。

「アーサー!菊!仕事がんばれよ!」

そう言って、幸せそうに笑うお前の姿を見たのは最後だった。
だって、お前を俺が殺したから。





「……何でなんだよ」

「何がだよ……」

「どうして、お前がこんなことしてんだよ……」

何があったか?
そんなことは簡単なことだった。
俺は軍官。だから、夜警もたまに受ける。
そこで、最近話題の狂気殺人犯を殺そうとした、だけだった。
それが、ギルベルトだったなんて誰が思ったろうか。

切りつけるほんの一瞬前に気がついた。
そいつの髪が銀髪であるということ。
それが赤の瞳をしていること。
俺が上げた桜の花びらが散ったこと。
そして、俺が切りつけようとしているのは、昔からよく見知っている、ギルベルトであるということ。

俺の疑問の言葉を聞いて、ギルベルトは苦しそうに凶悪な笑みを俺に向ける。

「別に、俺はきれいになりたかっただけだ」

「きれいに……?」

苦しい、辛いと思うのに涙があふれない。
俺は死体に慣れすぎた。

「そう、お前が言っただろう?
 昔……俺がきれいだって」

「ああ」

「それがうれしかったんだ。
 だから、俺は……お前の望むように、きれいになろうと思った」

それとこの事件との関連がわからない。
狂気殺人と言いつつ、何が狂気かというと、襲われるのはいつも女性。
身ぐるみは剥がれ、体が切り刻まれる。
もっとも、バラバラ死体とかじゃない。
切り刻まれるんだ。傷だらけのぼろぼろに。
そして、みんなかつて生前は美しい生娘だった。

「だから、俺よりきれいな女は殺した。
 そいつが身につけていたものはもらった。
 それを俺が身につけた」

ああ、こいつは何を言っているのだろうか。
涙がでないせいか、頭が麻痺する。

「だって、俺よりきれいな女がいなくなれば、そいつがいなくなったぶん、俺がそこに入り込める。
 きれいなものを身につけて俺はきれいになる。
 そうして……お前に俺がきれいだと思ってもらう」

言葉がでない。
口をぱくぱくさせるだけで、のどがからからする。
ああ、辛い。

だけれども、それを読みとってか、ギルベルトはふっと笑った。
その顔色は、もはやかなり青ざめている。
さっき、連絡をいれたからもうすぐきっと菊が来る。
そうしたら、俺はどうしたい?
ギルベルトを助けたい?それとも犯人を殺したい?

「俺が、こんなことした理由は、アーサーに……俺を見てほしかったから。
 どうして、俺は女じゃないんだろうって何回思ったろうな」

だから女装をするのだと。
女になりたいのだと。
自分を助けてくれた俺を振り向かせたいから。
自分が恋してしまった人は男だったから。
どうして自分は男なのだろうと。

それを戯言のように呟いて、せき込む。
心配すると、手を弾かれ、余計にまたせき込む。
ああ、だめだ、この子はもう死んでしまう。

「なあ、アーサー?
 俺はきれいか?」

「ああ、きれいだ」

事実すごくきれいだった。
不謹慎だが、黒い着物、花のカンザシ、俺の贈った桜。
桜なんて、赤く彩られている。
これがきれいと思える。
きっと、もうすぐ、黒くなってしまうけれども。

「そっか、なら、よかった」

そう言って、薄く笑ったその唇に血をすくって塗ってやる。
その赤く染まった唇に、俺の唇を寄せて口づけてやる。
そのまま、細く上げる声を無視して貪る。
そうして、そのか細い息を吸い取る。
薄く目を開けると涙をこぼしているのが見えて、それでもこいつの唇を食む。
そうして、すべてを食いつくした。

俺が唇を離すと、そこには息をしなくなった、美しい子がいた。

「嗚呼、もっと早く言ってくれればよかったのに」

風が俺のマントを揺らめかせる。
その風は俺の涙をも掬い上げる。
そして、笑ったギルベルトの涙と、花びらも。
髪に挿した花弁が舞散る。
ああ、あの花はもう黒くなってしまった。

「俺は、お前にとうに魅入られていたんだけどな、ギルベルト。
 もっと、早く気づけよばか……」

いつの間にか降り始めた雨に俺の涙は隠れてしまった。

「アーサーさん!犯人を見つけたという……のは……ギルベルト、君……?」

ああ、菊が到着したみたいだ。
さあ、どうしようか。

「菊、こいつが……犯人だった」

「な……」

ああ、そうだ。
ここは丁度ギルベルトに贈った桜の木があった街道だ。
そういえば、あいつはこの桜が好きだったな。

「なあ、菊」

「はい」

「ここに、埋めてやってもいいか?」

「……私は、犯人を見てません。
 私が見たのはギルベルト君だけです」

「ありがとう」

見過ごしてくれた菊に感謝しつつ俺はその桜の根本にギルベルトの亡骸を埋めた。

ありがとう、そしてごめん。
お前の思いに気づいてやれなくて。


2010/10/22

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「また、春が来たな」

「アーサーさん」

「菊……」

「今年もきれいな桜ですね。
 もうこの桜はここの名所ですよ」

「ああ、そうだな」

きれいに咲き誇った桜を見上げる。
根本にギルベルトを数年前埋めた桜は一際きれいに咲いている。

「知ってますか?
 きれいな桜の下には死体があるそうですよ」

「ああ、ならその噂は本当だな」

そう、その根本には綺麗な、とても綺麗な死体が眠っている。

「……ああ、本当に綺麗になったな、ギルベルト」

舞い散って、俺にまとわりつく桜の花弁に俺は語りかけた。
君はもう、踊り子でもなくなったのに、やはり春にしか出会えない。





悪ふざけじゃないよ!
いえいえ、大まじめに書いて、どうしてこうなった!

笹音さんのリクエスト「ギルが踊り子なパラレルモノ」です!
カップリングはおまかせとのことだったので、英普にさせてもらいました。

ちょっと久々に書いたからって二人とも偽物すぎてさーせんw
そして、無理矢理文字数減らしたから話しが急すぎる。
わかりにくい内容かつ、あまりうまくいってなくてすみません!

リクエストしてくださってありがとうございました!