堕ち共に逝く


どうして、こうなってしまったのだろう。
俺たちは何を間違えてしまったのだろう。
なあ、神様教えてくれよ。
どうしてあんたは俺たちにこんな過酷な運命を与えるんだ。





「ルッツ大丈夫か?顔色が悪いぞ」

「兄さん……ああ、大丈夫だ」

弟が苦しんでいるのに何も出来ない。
そんな自分が恨めしくてしかたない。

「無理すんな、俺の血を飲め」

「いや、まだ大丈夫だ」

そう言ったルッツは椅子から立ち上がって俺の食った分の皿をかたづけようとした。
しかし、その拍子にぐっと頭を抱える。
いつもの目眩だろう。

「やっぱ、無理すんな。
 ほら、俺は平気だから」

「くっ……すまない、兄さん」

「気にすんな」

椅子の背に体を預けさせ、動くなと命令して、俺も椅子の余っているスペースに片膝を乗せる。
申し訳なさそうにしながら、すまないとルッツ言う。
その時に荒い息が聞こえてかわいそうにと思う。
そして、また俺は自分の非力さを恨む。

端から見れば、俺よりも体格のいい弟が自分よりも多少小さい兄に椅子の上で迫られているという何とも滑稽で面白い光景に映るだろう。
いやしかし、俺たちはそういう関係でもない。
あえて言うならば互いに望んでいない敵同士なんだ。

シンクに手を伸ばし、そこにあったナイフを手に取る。
そのナイフを手首に当てて、一気に切り裂いた。
鋭い刃物で切った肉はさほど痛みもせず筋に逆らって水平に切れる。
そして、一緒に裂けた手首の血管からは鮮やかな色合いの血液がつぷっと溢れてくる。
こういうときは痛みに強い体でよかったと思う。
痛みの声も上げないからルッツも痛いと言われるよりは罪悪感も少ないだろう。

その切れた手首をルッツの口に近づけてやる。
すると
その手首に寄せた唇で俺の血を吸う。
さして量の多くない血を時間をかけて飲む。
俺はいくら浴びようと決してなれないその生命の証を飲み干してこいつは命を長らえている。
もっとも、俺の血はこいつにとって他の奴より良いらしいが。

「ちゃんと飲んで……生き延びてくれよ。
 俺がお前を人に戻してやるから」

そう、俺の弟は吸血鬼だ。
もっとも、二ヶ月程前までは普通に人間だったのだが。

俺はエクソシストを生業としている。
弟は普通に技術師として就職していて、そんな俺をずっと心配していた。
もっとも、俺は腕っ節には自身があったので気にするなとずっと言っていたのだが。

あれは急に起こったことだった。
先に言ったとおり俺は自分の腕に自身があった。
だから結構な量の悪魔や化け物と戦っている。
俺は話し合いが苦手だったから、どうしても戦うことが多かった。
その中で封印した奴も、もちろん殺した奴もいた。
殺し損ねて逃げてしまった奴もいた。
だが、それがいけなかったんだ。

ある日、俺がいない間にルッツが襲われた。
おそらく俺への復習だ。
俺と違ってエクソシストでも何でもない弟はやられてしまったんだ。
そして血を吸われ、奴らと同じ吸血鬼になってしまった。

そうなってしまった弟は、生粋の吸血鬼ではないので昼間でも行動できるし、まだ普通の人間のふりもできる。
だけれども、少なからず日光に太陽を削り取られ夜には血を欲する。
また、その血液量は日に日に多くなっていっている。
それは少しずつ削られていく体力が大きくなっていることであり、また吸血鬼に近づいていっているということだ。
そんな弟に、申し訳なさと大事な家族を守れない自分の無力さを感じて腹立たしく思う。

その為に俺はせめてもとルッツに血を与える。
だから俺の手首には治りきらないリストカットの後が無数にある。
普段はリストバンドや手袋、長袖で隠してなんとか同僚に隠している。
もし、知られてしまったら殺されてしまうから。
俺じゃなくてルッツが。

吸血することで吸血鬼になると先述したが、吸血鬼は直接噛みつかない限りは相手を同族にすることはできないらしい。
だから俺は自分で手を切ってこいつにやっている。
垂れ流した血を卑しく貪り舐める弟に俺は別に畏怖は抱かない。
だけど、こんな生活はどれくらい続くだろう。
俺はこいつの体を元に戻すことができないまま二ヶ月も過ぎてしまった。
それは今も一緒で、治してやることができないでいる。
しかも最近は飲む量が増えてきて、俺が常に貧血状態になっている。
たしか一昨日辺りはとうとう目眩で気を失った。
ローデリヒとか同僚の奴らが心配してくれていたが、大丈夫だと俺は嘘を言った。

もう、そろそろ隠し通すのも、俺の体も限界だ。
それでもやめることができない。

「今日は、なかなか顔色が良くならないな」

俺が告げると、俺の血をむさぼりながら上目使いに俺を見てくる。
その顔色はなかなか直らない。
だけど、そろそろ俺が限界な気がする。
体温が急激に下がったせいか感覚が麻痺してる。
血液が減ったせいだろうか、血中酸素が減ったのか気を失いそうな眠気もする。

本当に俺たちは何をしているのだろうか。

「兄さん……大丈夫か?」

「おいおい、俺は平気だけど、大丈夫そうに見えるか?」

「……見えない」

「だろうな」

きっと、今の俺の顔色はルッツよりも悪いだろう。
だが、表情を見て取れない人は無表情に答えた様に見えるんだろうが、長年一緒にいた俺にはわかるくらい、申し訳なさそうにしている。
だけれでも、その軽く伏せられた瞼の下には今もギラギラとした、血を欲する眼がある。

そのことに申し訳なく思いながらも俺は告げる。

「わりぃ、今日はこんだけにしてくれ。
 じゃねーと、また明日ぶっ倒れて坊ちゃんにしかられちまう」

軽口をたたきながら肩をすくめて、困ったという風にしてやる。
だけれども、もう俺も疲れてきたからか、それとも貧血気味だからかいまいちテンションが上がらない。
むしろ、もうこの関係を終わらせたいという気持ちになってきている。

ああ、この関係が終末を迎えるにはこいつを殺してしまえばいいのか。
そんなことまで考えてしまう。
その時に目の前に映ったのは、先ほど俺が手首を切ったナイフだった。

−−これで刺せば死ぬだろうか

そんな考えまで浮かんでくる。
ダメだって、わかっているのに理性が働いてくれない。
ああ、ダメだ。ナイフから目を離せない。

俺がナイフに手をのろのろと伸ばしその体に向けようとした瞬間だった。
何かに引っ張られる感覚がして、背中に強い衝撃を受けた。

「ぐっ……」

もっとも、感覚なんて麻痺しているから、これは肺が圧迫され声が詰まって出た声だ。
俺が呻いて目を開くと、目の前には弟の顔があった。
ああ、これはやばいとどこかで思った。

「死ぬな、兄さん」

ああ、バカだな。

「俺が殺そうとしたのはお前だったのに、何で俺が俺を殺すだとか思ったんだよ」

そう言った俺はもう何を言いたくて何を考えているのかわからなかった。
自分自身がわからないんだ。

その言葉にルッツは瞳目する。
そうだよな、普通驚くよな。
だけど「ならばそれは?」と俺の左手と首を目で指す。
何のことかわからず、俺がそれぞれに目をやる。

左手には先ほど手を伸ばしていたはずのナイフ。
首は直接見えないが、服に血が垂れて付着している。
あれ、何でだ?

「兄さん、俺を殺すのはかまわない!
 俺はいつ殺されてもおかしくないんだ!!
 だけど、貴方は死ぬな。
 そして貴方という人格も死んで欲しくない」

そう言っているその言葉で俺は何となくわかった。
そうか、俺が殺そうとしたのは目に映るこいつだ。
俺はこいつを殺したくないけど、殺したい。
だから、俺がいなくなればこいつは目に映らない。
つまり、こいつを殺さずに俺の中のこいつは殺せる。
なるほど、それなら何故俺はこいつを殺すつもりで自分に刃を向けていたのかという疑問に解答することができる。

「……どうしちまったんだろ、俺。
 自分が死ぬつもりなんてなかったのに」

何となく、もう思ったことをだだ漏らす。
考えてなんていられなくなった。
行動と本能が直結しちまっている。
理性なんてもう吹き飛んでしまったようだ。

「なあ、ルッツ。どうして、俺とお前は違うんだろうな」

言いながら俺の目からは涙が溢れてきたみたいだ。
ああ、本当に感情のコントロールもできない。
泣くつもりなんて毛頭ないのに。

「お前と俺が一緒なら、こんなことにはならないのに。
 どうしてお前は俺と違うんだ?
 どうして俺は……お前と、違うんだよ!!」

ああもう、本当にどうしてしまったのだろうか。
俺は自分でも気が触れてしまったとしか思えない反応を返す。
それを冷めた目で俺の中の冷静な部分で見つめる。
だけど、その俺は行動をおこせないから、ただ判断するだけ。
自分を止めることができないなんて情けない。

「ああ、そうか……」

そこで俺は気づく。
違うなら、違うものを除けばいいと。

肉体だけでなく、いつの間にか精神的にも限界に達していた俺の反応に驚くルッツを横に話し続ける俺は、こいつからみたら何とも滑稽だったろうな。

「なあ、ルッツ……」

それでもやはり止まらない。
俺は殺すことを決めた。
このギルベルト=バイルシュミットを。

「俺とはもうお別れだ」

俺はそう弟に告げた。
その代わり、これから俺は一緒にずっといると。
そうして俺は無理矢理俺自身を弟に殺させた。
その瞬間、とても痛かったことは覚えている。
ルッツ、これで死ぬ時は同じだお前が死ぬとき、俺は本当の意味で死ぬだろう。
今、俺はとても幸せだった。


2010/10/05

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だって、これでやっと弟と一緒にいれるのだから。

「ギルベルト、無断欠勤とはどういうこと……です、か……?
 ギルベルト?ルートヴィッヒ?
 いないのですか、どこにいるのです」

坊ちゃんが俺を探して部屋をひっかき回すのが滑稽だった。
その光景を見ているとくっくっくと笑いが漏れてしまう。
その声に反応した坊ちゃんが俺に振り返る。

「ギルベルト!何をしているんですか。
 体調不良じゃないならちゃんとエクソシストの仕事をしてください。
 貴方じゃないと倒せない魔物がどれだけいると思っているんですか!」

「ケセセ……わりーな、ローデリヒ」

俺にしてはきっと困ったような笑いをしていたに違いない。
自分でも情けない顔をしていたのだろうと思う。

「何がですか」

それでも眉を寄せるだけで凛と聞いてくる幼なじみには申し訳なさを多少なりと俺様でも感じる。

「俺はエクソシストをやめる。
 つーか、もうできねぇ。
 なあ、ローデリヒ、どうせ殺すならお前が俺を殺せよな」

「一体何を」

そう言うローデリヒの言葉を遮ってルッツの声がする。

「兄さん」

「ああ、行こう」

「ギルベルト!ルートヴィッヒ!
 きちんと説明なさい!!」

ああ、普段叫ばないのにそんな声出すなよ。
俺はもうお前の知ってる俺じゃねーのに。

「ローデリヒ、俺は死んだことにでもしておいてくれ」

「な……っ!」

「俺達、もう人間じゃねーんだ。
 吸血鬼だ、だからもうエクソシストはできねぇ」

そう言って坊ちゃんに背中を向ける。
そしてルッツの手を取った。
さあ、もう行こう。
ここは俺たちのいるべき世界ではない。

「待ちなさい、待ちなさいと言っているでしょう!」

「わりぃ、坊ちゃん。
 実はルッツ俺のせいで吸血鬼になってたんだ。
 黙ってて悪かったな。
 俺はこいつを殺させない為に吸血鬼になったんだ。
 だから、次会う時は俺たちを殺せよ」

俺はできる限りの普段通りの笑みを送った。
そして、日が蝕む俺たちの体に鞭打ち、俺たちは晴天へと消えた。
それを必死に掴もうとするローデリヒに胸が締め付けられそうになる。
ああ、何だかんだ言ってあいつは俺を友愛してくれていたんだと。

「本当によかったのか?」

「おう……これでよかったんだ」

そして、もう高く飛び立った俺の耳に坊ちゃんの言葉は届かなかった。

「ルートヴィッヒのことくらい、知ってましたよお馬鹿さん。
 相談してくださるのをずっと待っていたのに」

届かない声はそのまま晴天へかき消されてしまった。





終わった!
長い。今回は4500字強くらいあるぜー。
毎回リク小説は長くなってしまうな。
少しは短く書きたいものだ。

今回はかのさんからのリクエスト「独普で吸血鬼な独と聖職者なプー」でした。
……設定どこいったorz
ええ、あの……はい、すみません。
好き勝手したらいつの間にかこうなってました。
おかしい、当初プーは病む予定はなかったのに!!
俺が病みが好きなばかりに……くそっ。

さてさて、ではこんな感じでも良かったでしょうか?
気に入らなかったりしたら拍手にて申してください。
リクエストありがとうございました!